第三話「…あの人みたい」@渋谷区恵比寿2丁目

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「わぁ、前のお部屋と色合いが違いますね!こっちもいいなぁ」

相変わらず明るい人だ。『今日はお一人なんですね?』

「はい。動物達も小人達も森でお留守番させてます。私偉くないですか!」

『はいはい白雪姫様がお学びになった様で嬉しいですお部屋見ましょうね』

「ここもいいお部屋ですね!キッチンも豪華だし…あと、広い!」

今日はスムーズに進みそうだ…『一番広いお部屋となっております』

「7人の小人と一緒に住むっていうのは…」

『相談させてください(多分ダメですよーだ)』

『そういえば、白雪姫さんはお料理はされるんですか?』

「小人達が作ります!私は食べる担当です!」

…ここまで図々しいと名前とはいえ「姫」って言いたくないな…

「本当水回り綺麗ですね」

そうでしょ、女の子的にはポイント高いでしょ…『自信を持っております』

「良いことです」

!?…このヒロイン様気質はどこまで…!!

「ここも綺麗なフローリングですね」

落ち着けイライラしたら負けだ私…『免疫クロスと言いまして…』

「それはなんですか?」

話してたじゃん..!『花粉症などアレルギーを抑えてくれる優しいものです』

…そう言うと“白雪”は急に静かになった。

「…あの人みたい」

『誰ですか?』

「あ、なんでもないです。続けてください」

いや続けてって…続けるけど…『こちらウレタン吹付工法と言いまして…

夏は涼しく、冬は暖かくしてくれますよ…って、聞いてます?』

「あの人もモフモフして暖かそうなのに、涼しかったんです…」

いや、ずっと何の話だ?『白雪さーん。おーい。戻ってきてくださーい』

「あ、物語から飛び出してきた時に出会った人です」

あぁ、あの優しくて静かでっていう、人?獣?みたいでっていう…ん?

…んぅ!?

『あの白雪さん、ちょっと待って頂いてよろしいですか?』

「はい?」

『次のお部屋見てていいんで!絶対帰らないでください!』

 

私だけが知ってる物語が、生まれようとしていた。

賃料32.8万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月

著 思い出の案内人

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第二話「名前で呼んでくれたんです」@渋谷区恵比寿2丁目

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『えっと…その家具や食器の量は…』

「…僕の元執事達で…今はこんな見た目ですが…僕が言うのもなんですが…」

という訳で、本日は美女と野獣の「野獣」さんの登場です。

「………」

えっ、前回の白雪姫と打って変わって今度は無口なわけ…!?

何か話すか…『あの…失礼ですが、野獣さんはなんて名前なんですか…?』

「…実はアダムという名で…もう誰も名前では呼んではくれませんけど…」

…完全に話し方ミスったな…

挽回せねば…『日当たり良いベランダもあるのでお持ちのそのバラなども…』

「…これはもういいんです。枯れるのが花なので…」

…もう私どうしたらいいのよ…鏡よ鏡よ鏡さん…

負けるな私…『床下炭を採用してるので、湿気対策などもお任せ下さい』

「…僕、湿っぽい性格なんで…」

負けそう私…『そ、そうですか…』

「…これは、いいですね…」

…王子様がこんな面倒で卑屈な人になるお話なの?「美女と野獣」って…

「…僕でも入れるお風呂だ…この世界に来たものの噂通り中々なくて」

事実、ここ数年で自由を求め物語を飛び出す人達が多かった。

…大抵は物語中何らかの呪いをかけられた人達なので悲しい最後を迎えるが…

きっとこの「野獣」も安らかな時間を求めやって来たのだろう。

『クローゼットも大きいですよ。野獣さんはお一人で住む予定ですか?』

「…執事達と…」

家具と食器のことか。ノーカンだ。

「どこにいるか、誰かも分かりませんけど…好きな人と…」

え?

「…その人だけは名前で呼んでくれたんです。…だから、好きに…」

どこにいるか誰かも知らないって一度会っただけってこと…?

いや…色々気になることはあるけど…

初対面でこんな強面の人(獣?)を名前で呼ぶなんて、どんな人なんだ…

賃料23.8万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月

著 思い出の案内人

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第一話「『月が綺麗』が愛してるなら」@渋谷区恵比寿2丁目

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「だって話も止まらなくなりますよ。3年ですよ?」と彼女は言った。

「毒リンゴに騙されて、おまけに目覚めたら俺が王子だって。誰ですか」

あぁ、白雪姫も随分お喋りになったもんだわ、と思った。

「だから飛び出してきちゃいました」と笑う彼女の周りには小人の群れが。

「この人数でも靴入りそうですね!あと森の動物達も呼んだんですけど…」

相変わらずのお姫様気質め…でも今はこれが私の仕事…

『こちらへどうぞ…あ、小人まで!鹿は上がらないで!小鳥さんもダメ!』

「水回り綺麗…それにTVモニター!あの魔女本当怖かったんで安心です」

一斉にうなずく小人達。カメラの外に映りたがる動物達。

…もう苦笑いを作ってやり過ごそう。『そうなんですね』

「そういえば私、絵本から飛び出した時一人?一頭?の獣に会ったんです。

その日はすごく月が綺麗な夜で…優しい方だったんです」

『…そうですか。こちらFFC活水器で綺麗な水をご提供しますが…』

「あぁそれで思い出した!お話の中で私が言ったんです。

『月が綺麗』が愛してるなら『水が綺麗』は一緒に暮らしませんかだって」

私が話してる途中なんだけど…『そしたら、どうしたんですか?』

「静かに聞いてくれました。それが嬉しかったんですよ」

『…次のお部屋へ行きましょうか』

「ドレスもたくさん入りそうだし、良いお部屋ですね」

やっとそれっぽい話になった…『ありがとうございます』

「今日はとても楽しかったです。お部屋どうしよっかなぁ…

あ、でも今度また違うお部屋も見れるんですよね。楽しみにしてますね」

…もう今日は久々に高いワインでも飲もう。『ぜひとも…』

    

その時の私はまだ知らなかった。この世界には

「運命から逃げ出して出会う二人」がいることを。

賃料21.8万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月

著 思い出の案内人

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「ここは俺のロフトだ!」「違うよ僕のだよ!」@世田谷区代田5丁目

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「あんたが案内人か。なんだ?子供じゃねぇよ、俺達は老けねぇんだ。

まぁいいや。俺がナーサティヤ。そしてこっちが双子の弟のダスラ」

『すいません突然…今日はよろしくお願いします』

「エルフの国には仕来りがあってな。400歳の前に家を出なきゃダメなんだ」

『そんなこと言って…お兄ちゃんお父様に怒られて家出しただけじゃん…』

「うるさい!これから二人で暮らすんだ。靴も充分入りそうだな」

『すいません、僕連れてこられただけで…お兄ちゃんは一人で暮らします』

「中々綺麗だな。おいダスラ!今日から二人でこのお風呂に入るぞ!」

『僕は家出ないって!あといい加減一人でお風呂入れるようになってよ…』

「嫌だね!昔見たあの、なんか…恐ろしい映画のせいで嫌なんだよ!」

『それもう317年前の出来事だよ…』

「おいおい!人間は背も高けりゃ天井もこんな高いのかよ!」

『すごい…』

「ったく贅沢してんなぁ!どう思うダスラ!」

『あの…このお部屋、二人って大丈夫ですか?』

「庭もあるとは…しかもオヤジの部屋よりでけぇぞ…」

『そうだね…あ、案内人さん!今のはお父様には内緒で…』

「ん?なんだこのハシゴ」

『え、なんですか?これ』

「おいなんだここ!ロフトって言うのか!?」

『え、すごい!しかも二つあるんですか!』

「こっちの広いの!ここは俺のロフトだ!」

『違うよ僕のだ!いつもお兄ちゃんばっかずるいもん!』

「おいこっちにはエルフの帽子置きまであるぞ!こっちも俺のだ!」

『どっちもはずるいよ!大体お兄ちゃんだからって何が偉いのさ!』

「な、なんだダスラ…や、やるかぁ!?」

『それに双子って最近じゃ先に生まれた方が兄に変わってるんだよ!』

「…お兄ちゃんだからって何が偉いんだ?」

『..案内人さん今日は有難うございました。お兄ちゃんは一人で暮らします』

賃料11.2万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月

著 思い出の案内人

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ある夜に見たてるてる坊主の魔法@世田谷区駒沢2丁目

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(今日も何もない一日か…お?あいつ…仕方ねぇ、いっちょ仕事すっか…)

おい、若いの。びしょ濡れじゃねぇか。通り雨にでも打たれたか。

まぁ上がってけよ。安い酒と哲学くらいは御馳走するよ。あとタオルもな。

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どうだ、良い部屋だろう。今からちょっとしたもん作っからよ。

あぁ大丈夫だって、気遣うな。こう見えても中々料理はできる男なんだぜ?

何があったのかは知らねぇが、腹が減ってはなんとか、だ。

それに、もてなしを受けるのが客のマナーってもんよ。分かったな。

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堅苦しい責任はハンガーにかけちまえ。もっと身軽なのがあんた似合うよ。

それからゴミ箱そこにあっから。ポケットに入らねぇ悩みは捨てちまいな。

案外荷物は少ない方が歩きやすいもんだぜ。

勿論、いつかはでけぇ荷物も持ちたいもんだがな。それはまだ先の話だ。

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良い湯加減だろ?風呂につかりながら鼻歌を歌えばストレスも吹っ飛ぶさ。

おっと、ただし音量には注意だぜ。お隣さんを困らせちゃなんねぇ。

ま、一番怖いのは同じ部屋にいるカミさんなんだけどな。ガッハッハ。

笑っていいか迷ったら笑っとけ。そっちの方が多分幸せだ。

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そうそう、うちにはロフトもあるんだぜ。少年の心を忘れてねぇ部屋だろ?

あんたの悩みは俺にはどうしようもできねぇかもしれねぇ。けどな。

美味いもん食ってあったけぇ風呂につかって、ゆっくり寝る。

そういう時間もたまには必要なんじゃねぇのかなぁ?

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どうやら雨は止んだようだな。気をつけて帰れよ。

ところで…あんたのバッグについてるそのてるてる坊主。

はは、だいぶ汚ぇが…ずっと一緒にいた証拠だろう。うれしかったよ。

俺か?あんたらみたいな名前なんてありゃしねぇよ。

「晴れて欲しい」って願いで生まれる、てるてる坊主みたいなもんさ。

…その幼い心を忘れるなよ。

そんじゃ、俺はまたいつもの窓辺に戻るとするよ。

また会おうな。

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賃料11.0万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月

著 思い出の案内人

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職業:ヴァンパイアなんですけどイイ家あります?@杉並区堀ノ内1丁目

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あの…ちょっとお尋ねしてもいいですか?

ここには沢山お部屋があるって部下のコウモリ達から聞いたもので…

職業:ヴァンパイアなんですけどイイ家あります?

今の悪魔城ももうだいぶ古くて…維持費シャレにならないんですよ…

いやこれ本当なんで!魔界あるあるなんで!友達のミイラに今電話します?

…意外とフランクって?今もうこんな感じですよ。ヴァンパイア。

人の血を吸うも嘘ですね。普通に考えて旨くないでしょ。野菜食べたいし。

あとまぁ、お察しの通り私女ですしね。ヴァンパイア・ガールですし。

うわ~この日当たりのよさ!ヴァンパイア的にかなりバッド!きつい!

私達太陽の光に弱くて…夜に人間界に帰ると思えば…いけるかな…

悩むなぁ…「ヴァンパイアの目にも涙」ってこのことなんでしょうね…

…なに笑ってるんですか、噛みますよ!吸えないけど!

…人間の方たちはことごとく太陽の光が好きなんですね?

いやもういいですよ。この際最後まで見ます。綺麗さは確かにありますし。

洗面周りは評価します。見ての通りメイク落とすの大変で。有り難いです。

…あとマント干すの恥ずかしいんで…浴室乾燥うれしいです。すごく。

私達こういう場所大好きなんですよ…ほら、コウモリ達も好きそうでしょ?

ここでマニキュア落として…うん、中々いいかも…

…今の聞こえました?…なんか、恥ずかしいんで忘れてください…

そういえば、私のこと考えてオートロックのお部屋選んでくれたんですか?

…ありがとうございます、うれしいです。

でも大丈夫ですよ。いざとなれば大抵の相手は一捻りなんで。

あ、笑うとこじゃないですよ。ほんとです。

それじゃ!私お父さんのとこ行くので!また連絡しますね!

賃料10.4万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月

著 思い出の案内人

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お宝を探しに来たんだ。@世田谷区奥沢1丁目

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ボクの名前はアティック。

あの海の向こうから遥々やって来たんだ。

途中大きなクジラがじゃれついてきて大変だったよ。

何をしに来たのかって? そんなの決まってるじゃないか。

お宝を探しに来たんだ。

うん、地図に書いてある通り。ここだ。

なかなか良いじゃないか!この窓が故郷の空を思い出させてくれるよ。

オートロック?よく知らないけど貰えるものは貰っておくよ。島の教えさ。

それよりなんだこれ!外が見える!TVモニターって言うのか!文明だな…

ボクの家はヤシの木の葉が屋根だけど、ここの天井の高さも負けてないね!

そしてこの窓!どこにいたって太陽の光はやっぱり大切だよね。

でもう~ん、なかなかお宝は見つからないな…

ここら辺なんてキレイで窓があって保管するにはうってつけなんだけど…

えぇ!ここでもないのかい!?こんな絶好のスペースがあって!?

…どうでもいいけどなんかこの空間落ち着くな。この収納?とやらも…

いやそんなことはいいんだ、お宝!お宝はどこだ!

このハシゴ…なんだか幼い頃を思い出してワクワクするね!

家の中にこんなもの置けるなんて、とっても贅沢じゃないか!上は…?

これだ!これだよ!ボクが探してたお宝は!

昔からこういう場所が大好きだったんだ!

それにここは明るいし広いしすっごくキレイじゃないか!

自由が丘ってとこに初めて来たけど、来た甲斐があったなぁ。

ん?ボクの名前のことかい?

実は赤ちゃんの頃からボクはこういう場所が好きだったみたいでね。

君たちの国ではこれを「ロフト」って言うんだろ?

そう。ロフトアティック。そこからボクの名前がついたんだ。

「その小さな器には大きな幸せがあるんだ」ってね。

物知りなおばあちゃんの教えさ。

賃料10.4万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月

著 思い出の案内人

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