「だって話も止まらなくなりますよ。3年ですよ?」と彼女は言った。
「毒リンゴに騙されて、おまけに目覚めたら俺が王子だって。誰ですか」
あぁ、白雪姫も随分お喋りになったもんだわ、と思った。
「だから飛び出してきちゃいました」と笑う彼女の周りには小人の群れが。
「この人数でも靴入りそうですね!あと森の動物達も呼んだんですけど…」
相変わらずのお姫様気質め…でも今はこれが私の仕事…
『こちらへどうぞ…あ、小人まで!鹿は上がらないで!小鳥さんもダメ!』
「水回り綺麗…それにTVモニター!あの魔女本当怖かったんで安心です」
一斉にうなずく小人達。カメラの外に映りたがる動物達。
…もう苦笑いを作ってやり過ごそう。『そうなんですね』
「そういえば私、絵本から飛び出した時一人?一頭?の獣に会ったんです。
その日はすごく月が綺麗な夜で…優しい方だったんです」
『…そうですか。こちらFFC活水器で綺麗な水をご提供しますが…』
「あぁそれで思い出した!お話の中で私が言ったんです。
『月が綺麗』が愛してるなら『水が綺麗』は一緒に暮らしませんかだって」
私が話してる途中なんだけど…『そしたら、どうしたんですか?』
「静かに聞いてくれました。それが嬉しかったんですよ」
『…次のお部屋へ行きましょうか』
「ドレスもたくさん入りそうだし、良いお部屋ですね」
やっとそれっぽい話になった…『ありがとうございます』
「今日はとても楽しかったです。お部屋どうしよっかなぁ…
あ、でも今度また違うお部屋も見れるんですよね。楽しみにしてますね」
…もう今日は久々に高いワインでも飲もう。『ぜひとも…』
その時の私はまだ知らなかった。この世界には
「運命から逃げ出して出会う二人」がいることを。
賃料21.8万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月
著 思い出の案内人