お尋ねするが案内人殿、此処は一体何処にござるか…江戸の町はいずこへ…
それに街行く者は皆変わった身なりを…先程なぞ拙者の結いを笑われたぞ…
..い、今は2019年..!?つまらぬ冗談なら…いや、その眼差し、まことか…?
実は愛犬の八兵衛が足を滑らせ、何とか抱きとめようとし井戸に落ちたら…
戻ろうにもとにかく宿を見つけぬ事にはどうしようもない。助太刀を頼む。
何だこの整った佇まい..これで36歳..拙者と同い年か。通りで落ち着きもある..
なに、この宿は小型犬なら一緒に住めるのか!よかったなぁ八兵衛!
こやつも喜んでおるわい…それに、風の便りで聞いたのだが…この宿は
鉄筋コンクリート造とやららしいな…拙者の時代とは違い丈夫なんだろう…
こ、これは外の者が見える!?TVモニター…知らぬ地でも安心して眠れるな..
み、水が出てくる!?便所もこの把手を回せば水が流れるぞ!一体これは…
それにこの装置…「おいだき」とはなんのことにござろうか…
…ふ、風呂を温めてくれる!?火や薪を使わずしていつ何時でもか!?
拙者の生きた時代の行く先はこんなにも…この国も捨てたものじゃないな。
これが台所か…うむ、贅沢に広いではないか!
このガスコンロとやらは…うおっ!火だ!火事だ!消さねば!水を!早く!
なにを笑っておる…なに?黒いこの塊のつまみで自在に操れるだと…!?
なんということだ…いつも飯をこしらえてくれる母上に教えてやらんと…
大きな窓もあり、良い部屋ではないか!
よし八兵衛、ここをお前の部屋にしてやろう!
そうか嬉しいか!はは、尻尾をぶんぶん振りよって、こいつは可愛いのう。
案内人殿、なかなかこの宿気に入ってきたぞ!次の部屋を頼む!
此処に刀も置けるし結構結構!
そう言えば先程警察と名乗る青服に鬼の形相でなにやら言われたわ。
町の者に向ける訳なかろう!しかし武士も減ったものだ、少し悲しいな…
時に案内人殿、なんだかこう、郷愁の気持ちを満たす方法など知らぬか?
なに?次の部屋を見よと?ふむ、よかろう。見せたまえ。
こ、これは畳…此処は江戸の町か!?
町が変わろうと時が変わろうと、この手触りはやはり安心感をくれるな…
案内人殿、今日は助かった。この恩忘れる事なく刀を携え今の江戸を歩こう..
って、また青服か!町の者に刀を向けるわけなかろう!信じてくれ!
しかしおいそこの若人!ちょんまげを笑う貴様だけは許さぬ!切るぞ!
賃料15.0万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月
著 思い出の案内人