灼熱のグラウンド、鳴り響く金属音、白球と真っ黒に汚れたユニフォーム…
あの場所に立つことを。マウンドでロジンバッグを手に握ることを。
その瞬間を夢見続け、毎日ひとりで数字の無いユニフォームを畳み続けた。
そして大人になった今、ここが俺のロッカールームになった。
連日信じられない暑さが続く。俺が若い頃はもうちょいマシだったが…
今の子たちは大変だ。こんな中で学校に行ったりボールを追いかけたり。
ひろしも今はその一人になって、目まぐるしい毎日を過ごしてる事だろう。
まぁそんな事はさておき、一先ずは俺もシャワーを浴びて汗を流すとしよう..
野球が好きな少年だった。体育の成績は2だったが、楽しくて仕方なかった。
中学校に入るタイミングで野球を始めた。その時点で遅れを取っていたが、
そんなことは気にしなかった。自分はエースになると信じて疑わなかった。
そしてその夢は、夢のまま終わった。
光があれば影もある。だが影があるから光は光として輝く事ができる。
歓声に向けて振るヒットを放ったその腕、帽子のつばに託したメッセージ。
18の夏、アルプススタンドから見た仲間の勇姿に俺はそれを知った。
「ねぇ父さん、この部屋キャッチボール出来るね!」
ひろしならそう言うだろうな。あいつはまだ幼いところがある。
その癖難しい事情を知ってか知らずか週末に会う度彼は俺に懐いてくれる。
それに何の影響か…最近は野球に熱中だ。それも俺と同じ年に始めやがって…
離れていても俺の子だ。きっと天才ではないだろう事はわかる。
けどまぁ、あいつが影を知るまでは..そしてその影の大切さに気付くまでは、
「僕がエースになって甲子園で勝つからね」という眩しい言葉は貰っとくよ..
賃料7.4万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月
著 思い出の案内人