ラジオ体操のスタンプカード、溶けていくアイスクリーム、最後の花火。
終わるものが美しいのか、美しいものには終わりがあるのか…
そんなひと夏の思い出がここ、世田谷区代田で紡がれていた。
「よかったね。ほんとリフォームが終わるまで野宿になるかと思ったもの」
優子は冗談めかしながら、安心と喜びをかみしめている様だった。
「そうだな。それに一年とはいえ、良い部屋に住めた方がいいしな」
「早苗も高樹も嬉しそうだったもんね」
あぁ、そんなこともあったなぁ…
・・・・・
「ねぇママ、ここでおままごとしたい!」
早苗が珍しくはしゃいでいた。
手を引かれながら優子は困った様に、けれども嬉しそうにこちらを見る。
こんな平和な誘拐は初めて見たな…
今度は遠くの方から声がする。
「パパ来て、かくれんぼができるよ!僕はどーこだ!」
すぐさま半分顔をのぞかせた高樹が見えた。気づかないふりをしておこう。
「あれ~?たかどこ行った~?」
・・・・・
「良いお家だったね」と優子がつぶやく。
「そうだな。短い時間だったけどたくさんの思い出があるよ」
少し間をおいて優子は困った様に、けれども嬉しそうにこう言った。
「…もう一年くらい住めないかしら?」
ひと夏の思い出には敵わないな、と僕は思った。
賃料16.5万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月 定期借家1年
著 思い出の案内人