(今日も何もない一日か…お?あいつ…仕方ねぇ、いっちょ仕事すっか…)
おい、若いの。びしょ濡れじゃねぇか。通り雨にでも打たれたか。
まぁ上がってけよ。安い酒と哲学くらいは御馳走するよ。あとタオルもな。
どうだ、良い部屋だろう。今からちょっとしたもん作っからよ。
あぁ大丈夫だって、気遣うな。こう見えても中々料理はできる男なんだぜ?
何があったのかは知らねぇが、腹が減ってはなんとか、だ。
それに、もてなしを受けるのが客のマナーってもんよ。分かったな。
堅苦しい責任はハンガーにかけちまえ。もっと身軽なのがあんた似合うよ。
それからゴミ箱そこにあっから。ポケットに入らねぇ悩みは捨てちまいな。
案外荷物は少ない方が歩きやすいもんだぜ。
勿論、いつかはでけぇ荷物も持ちたいもんだがな。それはまだ先の話だ。
良い湯加減だろ?風呂につかりながら鼻歌を歌えばストレスも吹っ飛ぶさ。
おっと、ただし音量には注意だぜ。お隣さんを困らせちゃなんねぇ。
ま、一番怖いのは同じ部屋にいるカミさんなんだけどな。ガッハッハ。
笑っていいか迷ったら笑っとけ。そっちの方が多分幸せだ。
そうそう、うちにはロフトもあるんだぜ。少年の心を忘れてねぇ部屋だろ?
あんたの悩みは俺にはどうしようもできねぇかもしれねぇ。けどな。
美味いもん食ってあったけぇ風呂につかって、ゆっくり寝る。
そういう時間もたまには必要なんじゃねぇのかなぁ?
どうやら雨は止んだようだな。気をつけて帰れよ。
ところで…あんたのバッグについてるそのてるてる坊主。
はは、だいぶ汚ぇが…ずっと一緒にいた証拠だろう。うれしかったよ。
俺か?あんたらみたいな名前なんてありゃしねぇよ。
「晴れて欲しい」って願いで生まれる、てるてる坊主みたいなもんさ。
…その幼い心を忘れるなよ。
そんじゃ、俺はまたいつもの窓辺に戻るとするよ。
また会おうな。
賃料11.0万円 敷金1ヶ月 礼金1ヶ月
著 思い出の案内人